宇宙の冒険を描いた本を読んですっかり感化されたのび太は、さっそく宇宙へ飛び出すべく、ドラえもんにロケットをおねだりしました。けれどドラえもんに言わせると、のび太のような怠け者には宇宙探検は無理だとのこと。
それを聞いてへそを曲げたのび太を見て、言い過ぎたと反省したドラえもんが取り出したひみつ道具が“ロケットそうじゅうくんれん機”です。
ドラえもんのロケットそうじゅうくんれん機は、宇宙船のフライトシミュレーターです。
コックピットを再現した操縦装置で円盤UFO型ドローンを操縦します。ドローンから見た映像を宇宙風の景色に変換して操縦装置のモニターに映し出すことで、宇宙探検を模擬体験させる仕組みになっています。
衝突したり墜落したりしてドローンが壊れると、操縦装置も爆発して壊れます。
我々の暮らす現代には、ロケットそうじゅうくんれん機に対応している宇宙船がまだ存在していません。したがって訓練装置としての有用性は未知数です。それでも単純に娯楽用品として文句なしに楽しめるでしょう。
問題はロケットそうじゅうくんれん機のドローンが反重力ないしは未知の原理で飛んでいるのが見た目にも明らかな点です。うかつに人目にさらせば騒ぎは避けられません。住宅地はもってのほか、気兼ねなく飛ばせる環境はごく限られます。
場所を選ぶにしても、かなり大きい操縦装置を運搬するのは一苦労です。自宅の立地条件によっては、もらっても宝の持ち腐れになってしまうでしょう。
困ったことに、ドローンが壊れると同時に操縦装置も壊れて爆発します。火の手は上がらず、威力も低いとはいえ、爆発には注意が必要です。
カメラを搭載したドローンの悪用には盗撮が考えられますが、ロケットそうじゅうくんれん機で撮影したすべての映像は宇宙風に強制変換されるため、実際の映像を見ることはできません。
原作エピソードでは、のび太の操るロケットそうじゅうくんれん機のドローンが、いつものように入浴しているしずかちゃんのバスルームへ侵入しました。そのときにモニターに映し出されたのは、湖から現れた宇宙怪獣の姿でした。
ジェット推進機やプロペラなどの揚力を得る装置が見当たらないのに空を飛んでいるロケットそうじゅうくんれん機のドローンは、まさしくUFOそのものです。そんな物がそこらを飛んでいたら、あっという間にSNSで拡散されてしまいます。
未来からやってきたドラえもんのひみつ道具ではなく、小人宇宙人が乗ったUFOだと思われるにせよ、秘匿性がまるでないことに変わりありません。
誰でも購入できる民生用のプロペラ式ドローンでさえも、すでに性能はロケットそうじゅうくんれん機に追いついています。軍用ならさらに上をいきます。
映像をリアルタイムに変換するのも、ロケットそうじゅうくんれん機ほど高度ではないものの、スマホの無料アプリでできる時代になりました。こちらも技術が追いつくのは時間の問題でしょう。
原作エピソードが執筆されてから40年余りが経ち、今やロケットそうじゅうくんれん機の革新性は皆無になりました。
ロケットそうじゅうくんれん機によって得られる体験は、現存するドローンなりPCのソフトなりで代替できる範疇(はんちゅう)をさほど超えていません。
これほど場所を取るデカブツをわざわざ使うまでもないでしょう。むしろ邪魔なので迷惑なくらいです。というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、ロケットそうじゅうくんれん機の優先度は星
つです。