のび太といつもの仲間たちが下校中のこと、頭のよさや力の強さの順位をつけて盛り上がりました。帰宅したのび太から「イケメンランキングなら自分が一番」だと思っていることを聞いたドラえもんは、おかしくて笑い転げます。
それなら機械に判定してもらおうと取り出したひみつ道具が“正かくグラフ”です。
ドラえもんの正かくグラフは、どんなことでも正確に判断して棒グラフにするボードです。
グラフの題目をボードの上部に、値にする項目を下部にそれぞれ記入して、スイッチを入れると、中央のパネルに棒グラフが表示されます。
値は14×14マス(1)の方眼で表すため、「正確」だけど「精密」ではない、ざっくりしたグラフとなります。具体的な数値は出ません。
表示されたグラフに書き足して改変すると、グラフが実体化して、改変後のグラフのとおりになるように実力行使します。原作漫画で「いいあたま」のグラフを改変したのび太は、実体化したグラフに無理やり勉強させられました。
(1)正かくグラフが登場する原作エピソード「グラフはうそつかない」では、マス目の数はコマごとに上下しています。当サイトではこれを描写上の問題として、14×14マスに固定されているものとします。
のび太に限らず誰だって、能力の優劣に白黒をつけたくなる場面はあるはずです。けれどもゲームのようにステータス画面を開いて能力値を確認とはいきません。
そこで正かくグラフです。14段階という大まかな尺度ではあるけれど、比較するには十分。人の能力を正確に測れるのは、ビジネスにおける強力なスキルとなります。
正かくグラフの対象は人にとどまりません。商品やサービスを見極めるのにも使えます。あらゆる比較検討を正確に判断できるから、ビジネスにショッピングにと活躍の場は多岐にわたります。
自分の能力を確認すれば、隠れた才能を見つけられるかもしれません。でも……。
もしも自分の能力が、自分で思っていたよりもずっと低かったら?
前向きに気持ちを切り替えられればいいけれど、自信喪失に陥ってしまうと人生に暗い影を落としかねません。
現実はコンピュータゲームとは比べものにならないほど複雑で流動性が高いから、正かくグラフで確認した能力は一過性のものかもしれないのに、それで自分を規定してしまうと自分で自分を潰してしまいます。
どんな結果を見ても揺るがない自信がなければ、自分をグラフにしないほうが賢明でしょう。
正かくグラフはプライベートなことでもグラフにできます。たとえば今まで交際した人数を暴けます。具体的な人数が表示されなくとも、自分のグラフと比較すればだいたい見当がつきます。
このように人のさまざまなデータを丸裸にすることは、なかなか悪質です。
外部に及ぼす影響がいっさいなく、人前で使う必然性のない正かくグラフを秘匿するのは容易です。
遺伝子操作によって生まれた“優れた”人間、いわゆる「デザイナーベビー」が社会的に優遇されている近未来が舞台のSF映画『ガタカ』や、人間のさまざまな適性を計測する「シビュラシステム」に管理された社会を描くアニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』など、人の能力が社会から判別された未来を描く物語は多くあります。
アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』第2弾PV
そういった未来が我々にとって「望ましい世界」だとはとうてい思えません。物語でも一種のディストピアとして扱われるのが常です。
正かくグラフは、そんなディストピアへ向かう最初の一歩になり得る革命的なひみつ道具です。
あれやこれやの曖昧な要素を正かくグラフで(良くも悪くも)明確にすれば、世の中を形作る仕組みの一端を解き明かせます。
秘匿して一個人で使う分には前段で危惧したような選民思想がはびこる引き金にはなりません。日々迎える選択の参考にするため気軽に使っても差し支えないでしょう。
注目を浴びることないマイナーなひみつ道具の割には、なかなか食指が動かされます。というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、正かくグラフの優先度は星
つです。