のび太がしずかちゃん宛に書いた内緒の手紙の配達をこともあろうにジャイアンとスネ夫にお願いしました。
配達を引き受けた二人は当然のごとく封筒を勝手に開けました。けれど便箋は全くの白紙だったのです。
書き忘れ? いやいや、いくらのび太でもそこまで間抜けじゃありません。それはひみつ道具の“ないしょペン”で書かれた手紙だったのです。
ドラえもんのないしょペンは、内緒の手紙を書くためのフェルトペンです。このペンで書いた文字や絵は、書き手と、宛名で指定した相手にしか見えません。
原作でドラえもんはのび太としずかちゃんに1本ずつないしょペンをあげていました。そこで、ドラえもんからもらえる数量は2本とします。
シビアな話をすれば、絶対に秘密にしたい事柄は文書に残さないのが鉄則です。
そこをあえて手書きでしたためるのだから、ないしょペンの真価は「秘密を守れる」ことではなく、「秘密を作れる」ことでしょう。
「秘密の共有」は仲を深めます。のび太としずかちゃんは、ほかのみんなには読めない内緒の手紙でデートの約束をしました。そのとき二人はより親密になったはずです。
「それLINEでよくね?」と言うのはまあごもっとも。そこにエモいなにかを感じないなら、ないしょペンを使うまでもありません。
ないしょペンで宛名を明記しないと、文中に書かれている名前やあだ名が宛名として誤認されるおそれがあります。
意図した相手にだけ見えるようするために、宛名は書き忘れないように気をつけましょう。
ないしょペンと通常のペンを織り交ぜて文章を書くことで、当事者と第三者とで内容が違って読める文書が作成できます。
これを用いた契約書の類いは詐欺につながります。「契約内容と違う」と相手が訴え出ても、周りからは「ありもしない文言を主張しているモンスタークレーマー」にしか見えません。
確かに書かれているのに、みんなから「そんなことは書かれてない」と言われるのだから、人間不信に陥ったり、自分の頭がおかしくなったのかと思い悩んだり、さぞかし辛いことでしょう。
内緒の手紙を書くためのひみつ道具だから、部外者に対するないしょペンの秘匿性はばっちり。でも受け取る相手にはこのペンの特性を打ち明けなければなりません。
現代の常識では考えられないないしょペンの効力をいったいどう説明する?
インクが切れたらもうおしまい。たった2本のないしょペンで社会は変えられません。ただし、ないしょペンのテクノロジーが当たり前となったら、文書の信頼性は失われます。黒塗りやシュレッダーどころの話ではなくなります。
ドラえもんが生まれた未来の世界では、あらゆるテクノロジーの相互作用で社会の秩序を保っているはずです。時を越えてひみつ道具を一つだけもらえば、そういった秩序が瓦解しかねないことを決して忘れてはいけません。
なんでもかんでもスマホで済ませるのは多様性も味気もないけれど、便利なんだから仕方がない。ないしょペンをもらっても、結局LINEに戻るのは目に見えています。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、ないしょペンの優先度は星
つです。