もしも「驚時機(マッドウオッチ)」をもらったら

今日もまたのび太がママに叱られています。トイレで中座したのび太は、たいてい1時間は続くお説教をなんとか短時間にできないかとドラえもんに相談しました。しずかちゃんが遊びに来る時間が迫っていたのです。

それならとドラえもんが貸してくれたひみつ道具が“驚時機(マッドウオッチ)”です。

名称

この「驚時機」は出版社による自主規制で改められた表記で、原作漫画に登場した当初の表記は「狂時機」でした。さらには「マッドウオッチ」と読ませる当て字だったことも表記ゆれを招いて、現在における道具名の扱いは混迷しています。

てんとう虫コミックス『ドラえもん』第8巻(2015年10月20日 第170刷)
驚時機きょうじき
アニメ版公式サイト(テレビ朝日)
「マッドウオッチ」と「驚時機きょうじき」を併記
『ドラえもん最新ひみつ道具大事典』(2014年1月22日 第13刷)
驚時機マッドウオッチ」(索引で「驚時機きょうじき」もフォロー)
藤子・F・不二雄大全集『ドラえもん』第2集(オリジナル版)
狂時機マッドウオッチ

ようするに「狂」の字がNGなのでしょう。ちなみに放送禁止用語ではないようで、TBSで現在放送中のテレビ番組『クレイジージャーニー』では、副題の「狂気の旅人」が普通にテロップ表示されています。

機能と効果

ドラえもんの驚時機は、時間の流れを部分的に速くしたり遅くしたりする懐中時計です。

まず文字盤の「逆転スイッチ」と「倍数カウンター」をセットします。速くするには逆転スイッチをCに、遅くするにはSに入れます。倍数カウンターには希望の倍率を指定します。そして本体上部の「作動ボタン」を押すと実行します。

時間の速度を変える対象範囲は、“どこでもドア”のように使用者(作動ボタンを押した人)の考えを読み取って決定されることが原作漫画における描写からうかがい知れます。

使用者と、使用者が触れている人(1)は驚時機の効力を受けません。変化した時間の流れの外にいます。

原作漫画には複数回登場しており、世界の時間を止めるひみつ道具として使われたこともあります。しかし時間停止に特化した“タンマウオッチ”があることを考慮して、当サイトではあくまで時間の速度を変える道具として驚時機を扱います。

そのため、倍数カウンターの設定は驚時機が初登場した原作エピソード「マッド・ウオッチ」で使われた100倍を上限とします。そのほかの機能と効力もこのエピソードを参照しています。

(1)原作エピソード「マッド・ウオッチ」でドラえもんが驚時機を使ってその機能をのび太に説明する場面をよく見ると、使用者のドラえもんがのび太にずっと触れています。

有用性: ★★★★☆

驚時機の「特定の箇所だけ時間の流れる速さを変化させる」という効力は恐るべきものですが、ありふれた日々の生活でも役立ちます。

もっとも身近な用途は保存です。どんなに慎重に保存しても時間の経過による状態の悪化、いわゆる経年劣化は生じます。そこで驚時機です。収納家具の時間が流れる速度を100分の1にすれば、そこに入れた物は100倍長持ちします。

ホコリの侵入速度も100分の1になるから掃除もらくちん。クローゼットも本棚もコレクションケースも、あれこれ時間を遅くしちゃいましょう。ただし冷蔵庫は冷却速度も遅くなってしまうから、部分的に効果範囲を外すなどの工夫が必要です。

速くするのも効果的。洗濯機も電子レンジも炊飯器も100倍速く終わります。パソコンを高速化すればモンスターマシンと化します。その代わり経年劣化も速まる副作用あり。面倒でも使うたびに効力をオンオフしないと、すぐ痛んでしまいます。

驚時機の使用者は変化した時間の影響を受けないので、それらの使い勝手は変わりません。ただし効力が及ぶほかの人には問題が生じます。時間の流れを100分の1にした収納家具に入れた手は、100分の1の速さでしか動かせません。

たとえ家族でもひみつ道具の存在を安易に明かしてはいけません。身の回りの日用品に気軽に使える環境となると、一人暮らしに限定されるでしょう。

危険性: ★★★★☆

時間の流れを速めるか遅くするかの設定を間違えて使ったまま気づかないでいると、場合によっては取り返しのつかないことになります。

そして驚時機の効力は理解を超えた摩訶不思議なものです。

驚時機を取り出したドラえもんが手始めに野比家の居間の時間を速めたときのこと。時間はあっという間に過ぎて窓の外が暗くなりました。日が暮れたのです。しかし居間から出るとまだ日は高いままでした。

居間の外は変わらぬ時間のままなのに、居間から見る外の時間は進んでいる⁉ いったいぜんたいなにが起こっているのでしょうか。驚時機の効力をわかったつもりになって安易に使うと、予想外の結果に泣くことになるかもしれません。

悪用度: ★★★★★

誰かがいる部屋の時間を勝手に遅くしたら? たとえば登校や出勤する前に時間の流れを10分の1にすると、その人が1時間で身支度を終えて出かけたつもりでも、世界の時間は10時間も経っています。

学生の試験や、社会人の絶対に外せない商談などを無届けですっぽかすことになったら……。考えただけでめまいがします。

また、100分の1にした時間の流れにいる人は、時間干渉を受けない驚時機の使用者からしてみれば、ほぼ止まっているようなものです。人を無力化するこの効力はさまざまな犯行につながります。

ほかにも死亡推定時刻の改変など、悪用方法を挙げていけばきりがない。それが驚時機というひみつ道具です。

秘匿性: ★★★☆☆

驚時機による時間干渉を受けている人と、いない人が互いを見れば、極端に速かったり遅かったりするのだから、なにかが起こっているのは明らかです。そこからすぐに驚時機の存在に考えが至らないにしても、運用方法には注意が必要でしょう。

革命度: ★★★☆☆

ドラマ『SPEC』の一(にのまえ)のように世界とは違う時間の流れに身を置くのも、アメコミ『ザ・フラッシュ』のフラッシュのように超高速で世界を駆けまわるのも、映画『マトリックス』のネオのように銃弾をよけるのも、驚時機ならお手の物。

驚時機の持ち主は強力な能力者として社会へ影響を与えられるでしょう。

まとめ

時間を操るひみつ道具は『ドラえもん』の花形です。それだけにラインナップが充実している中、驚時機は使い勝手の良さと応用範囲の広さ、そしてタイムパラドックスの心配が(たぶん)ないのが光ります。

なにげに原作漫画での登場回数が多いのも納得です。ただ、「絶対にこれ!」という決め手は見いだせませんでした。というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、驚時機の優先度は星3つです。

道具名称:
驚時機(マッドウオッチ)
原作初出:
『ドラえもん』第8巻「マッド・ウオッチ」
カテゴリ:
「ま」で始まるひみつ道具 / 『ドラえもん』第8巻 / 時間
公開日:
2016年11月04日

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