しずかちゃんのおじの美術評論家がみんなの絵を観てくれることになりました。ジャイアンもスネ夫も褒められてアドバイスをもらったのに、のび太の絵だけはまるで相手にされませんでした。
あまりの悔しさに泣き崩れたのび太のために、ドラえもんが取り出したひみつ道具が“ひょうろんロボット”です。
ドラえもんのひょうろんロボットは、どんな絵でも素晴らしい作品だと人に思わせるロボットです。
誰かが絵を観ているそばでこれのスイッチを入れると、「イーイー(良い良い)」とその絵を褒め始めます。それを聞いた人は、観ている絵がとても優れた芸術作品だと思えてきて、しまいには感涙にむせびます。
見た目はベレー帽をかぶった美術評論家風で手のひらサイズ。ベレー帽のチョボ(頭頂部の突起)がスイッチになっています。
評論家による解説で作品の文脈を理解して、感銘が深まることがあります。そういった評論は有意義です。
一方、ひたすら「イーイー」としか言わないひょうろんロボットは、評論とは名ばかりの洗脳をしているだけです。そこから生まれる感動はまやかしに過ぎません。
それでもアルコールの作用による高揚感などを目的として人々にお酒がたしなまれていることを考えれば、インスタントな感動もあながち無意味とはいえません。ストレス解消法として一定の効果を望めるでしょう。
ひょうろんロボットの効果が及ぶ対象者は、絵が視界に入っていて、ひょうろんロボットの声が聞こえる人全員です。効果範囲が割と広いため、人前で使うと余計な騒動を招くおそれがあります。
ひょうろんロボットを用いれば、落書きを造作もなく高値で売りつけられるでしょう。絵画商法、いわゆる「エウリアン」にうってつけです。
そもそもひょうろんロボットが洗脳装置である以上、人に無断で使った時点ですでに悪用です。
効果を与えるにはひょうろんロボットの「イーイー」という褒め言葉(?)を直接聞かせなくてはならないので、秘匿性は期待できません。
「なにかを無条件であがめさせる」という効力は、とても恐ろしいものです。その「なにか」が人物だったら? 政策だったら? 聖典だったら?
ひょうろんロボットのテクノロジーが解析されたなら、民衆を扇動する洗脳装置に応用されるのは必至です。よこしまな革命を起こさせないためにも、ひょうろんロボットの存在は秘匿するべきです。
素のひょうろんロボット自体にも危うさはあります。例えば教義を元にした絵に夢中にさせることは、カルト教団への入信を促す手立てとなり得るでしょう。
普通に褒め上手な評論をしてくれるならともかく、催眠術のようなもので強制的に感動させるのでは底が浅いというもの。素直に美術展に足を運んで、自分の内から感動が湧き出る絵との出会いを探した方が健全でしょう。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、ひょうろんロボットの優先度は星
つです。