てんとう虫コミックス『ドラえもん』第3巻に収録されている「白ゆりのような女の子」は、戦時中の学童疎開を描いた傑作エピソードです。物語性に重きを置いたエピソードのせいか、登場するひみつ道具にひねりがありません。
そんな安直なひみつ道具の一つが“30分できく毛はえぐすり”です。
30分できく毛はえぐすりは、文字どおり使ってから30分で効果の出る毛生え薬です。液状の塗布剤で、毛を生やしたい部位に直接かけて使います。
原作では、訳あって丸刈りにしたのび太の髪型を元へ戻すために使われました。薄毛の人に使う描写はありませんが、「毛生え薬」と銘打っているので、育毛と発毛両方の効果があると思われます。また、頭髪以外の体毛にも使えるものとします。
その効果は劇的で、頭にかけてから30分後に急激に髪が伸び始めて、丸刈りだったのび太があっというまにロングヘアーになりました。
いうまでもなく、30分できく毛はえぐすりは薄毛の解消に最大限の効果を発揮します。薄毛に悩んでいる人にとっての有用性は計り知れません。
薄毛でなくても、ヘアスタイルにこだわりがあるなら重宝するはず。たとえばカットが気に入らなかったときに使えば、瞬く間に髪が伸びてカットし直せます。これなら、ちょっと勇気の要るベリーショートにだって気楽にチャレンジできます。
ヘアスタイルに無頓着ならさほど活躍しないでしょう。有用性は使う人しだいです。
30分できく毛はえぐすりのたぐいが物語に登場すると、「全身毛むくじゃらになっちゃった!」みたいな展開がありがちです。けれども、ドラえもんがのび太に結構テキトーにかけたにもかかわらず、頭髪以外には変化が一切起こりませんでした。
どうやら元から毛根がない部位から毛が生えてしまったり、産毛が剛毛に変わってしまったりする問題は起こらないようなので、これといった危険性はないでしょう。
お風呂のお湯に30分できく毛はえぐすりをこっそり混ぜておくと、入浴した人が処理していたムダ毛を全部ボーボーにさせられるかもしれません。ちんけな嫌がらせですが、女性にとっては結構ショックなはず。
とはいえ、ムダ毛はまた処理すればいいのですから悪質性は低めです。
ヘアスタイル一つでその人の印象が変わるくらい髪は人目を引く要素です。通常ではあり得ない速さで髪を伸ばしてしまうと、周りから余計な詮索をされかねません。秘匿性を守るには、発毛・育毛のペースをわきまえた計画性が必要となります。
発毛剤は、30分できく毛はえぐすりが原作に登場した1974年当時は夢の存在だったようです。しかしそれから40年有余の歳月が経ちました。
薄毛治療はビッグビジネスです。お金になる分野は参入する企業が増えて、成長が早まります。薄毛治療も日進月歩しており、30分できく毛はえぐすりに時代が追い付くのも遠い未来ではなさそうです。
さすがに「30分」という速さは無理だと思われますが、そこまで急を要する効果ではないので、課題とはならないでしょう。
今は必要なくても、30分できく毛はえぐすりをもらっておけば、いつか役に立つ日が来るかもしれません。けれどもそのために後生大事に持っておくなんて、「ひみつ道具を一つだけもらえるとしたら」という夢のある話にそぐわない選択です。
というわけで、30分できく毛はえぐすりの優先度は星
つです。