恐竜はこの地球のどこかでまだ生き残っていると信じているのび太は、スネ夫に正論で言い負かされてみんなにバカにされてしまいました。
なんとしても恐竜の生き残りを探してみせると息巻くのび太にドラえもんが差し出したひみつ道具が“○×(まるばつ)うらない”です。
ドラえもんの○×うらないは、どんな質問にも答えを○か×かではっきりと出してくれるひみつ道具です。そしてその占いの結果は100パーセント信用できます。
○と×の形をした板状で、サイズはそれぞれ30cmほど。これを床などに置いて、正否で答えられる質問をすると、正なら「ピンポーン」と音がして○のほうが、否なら「ブーッ」と音がして×のほうが、宙に浮かび上がります。
さて、一般的に占いとは、将来の成り行きを示すものです。しかし○×うらないが登場する大長編『のび太と竜の騎士』では、すでに確定している事実の判断だけが行われました。
将来といえば、のび太の結婚相手はドラえもんの介入によってジャイ子からしずかちゃんへと変わりました。『ドラえもん』の世界における未来は流動的です。つまり100パーセントの精度で未来を言い当てることはできません。
これは○×うらないの「100パーセント信用できる」という確約と矛盾します。よって○×うらないが判断できるのは既定の事実だけで、未来を問う質問には一切反応しないと推測されます。以降、この推測に基づいて話を進めます。
人生は選択の連続です。もしもその選択一つひとつに最善の答えをいつも出し続けられるとしたら……。そんな夢のような話が○×うらないを使えば現実となります。
ときに誤った選択をしてしまうのが人生というものだから、○×うらないにお膳立てされた人生に真の価値があるかは定かではありません。けれども、後悔ばかりの人生よりは確実に幸せでしょう。
たとえば絶対に失敗したくない選択の一つである住まい選び。欠陥住宅ではないか、近隣にマナーの悪い住民はいないか、自分のライフスタイルに合っているか、などの知りたい情報を100パーセントの精度で事前に確認できます。
もちろん、外食するお店選びのような日々の小さな選択にも○×うらないは有用です。とにかくあらゆる場面で自分にとって価値あるものを的確に選べます。
使い道は選択の参考にとどまりません。身体に関して占えば、万全の健康診断となります。人間ドックに入らずとも、ガンなどの大病を必ず早期発見できます。正式なガン検診でも見落としは起こりうるので、この「必ず」は得難い恩恵です。
ほかにも、地球外生命体は地球に飛来しているのか、ビッグフットは実在しているのか、そんなオカルトめいた話に白黒つけるなんてことも可能です。
もっと壮大に「神はいるか?」と問いかけても良い。些細なことから宇宙的なことまで、知りたいことのすべてを○×うらないが答えてくれます。
言葉、特に話し言葉は曖昧さを多分にはらんでいます。人はそれまでの文脈から柔軟に補完して意味合いを読み取りますが、融通のきかない○×うらないは字面どおりにしか受け取りません。
そのせいで『のび太と竜の騎士』では、のび太とドラえもんの質問の意図と○×うらないの答えに食い違いが生じてしまいました。○×うらないに重要な質問をするときは、事実誤認しないように質問の文言をきっちり推敲するべきでしょう。
また、どこまで○×うらないに選択を委ねるかは難しい問題です。人生における選択の積み重ねがアイデンティティーを形作るのだから、あまりにも○×うらないに依存することは主体性の喪失につながりかねません。
どこかで一線を引かないと、生きている実感を失ってしまう恐れがあります。
○×うらないを使えば、人の心の内すら暴けます。正否だけの判定とはいえ、質問を重ねれば秘めた思いがあからさまに見えてくるでしょう。いうまでもなく、それは許しがたい所業です。
ほかにも企業秘密など、あらゆる秘匿情報を不正にうかがい知れます。
○×うらないの「ピンポーン」や「ブーッ」という効果音は、人が反射的に注目する音色です。その上、プロペラもないのに謎の力で宙に浮くのだから、人前では使えたもんじゃありません。
一人きりで使う分には問題なし。対人で必要になりそうな情報は前もって占っておきましょう。
学者が○×うらないに質問を重ねれば、短期間で膨大な発見が得られるでしょう。それは人類が今後発見し得るすべてです。間違いなく世界が変わります。
さらに究極の質問といえる「神はいるか?」、その答えが○にせよ×にせよ宗教観がひっくり返ります。
本来なら段階を踏んで知っていく答えを一足飛びに得ても、人類にとってプラスにはならず、むしろ混乱を招くだけかもしれません。国家をはじめとするあらゆる組織が○×うらないを奪い合って、動乱の世になる恐れすらあるでしょう。
○×うらないの存在は世に明かさないほうが身のためです。
「情報を制する者は世界を制する」といっても過言ではありません。あらゆる事柄の正否を100パーセントの精度でたちどころに判断する○×うらないは絶大な力です。
余りにも強力すぎる嫌いがあるけれど、それも使用者のさじ加減次第。うまく使えば、よりよい人生を送る手助けになるはず。類似するひみつ道具の“ミチビキエンゼル”にあった欠点が解消されて実用性を得ました。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるとしたら、○×うらないの優先度は星ドラえもんのひみつ道具で欲しいものランキングにランクインです。
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