奮発して高級なコンポを買ったのび助(のび太のパパ)が張り切って大音量でレコードを聴いていると、近所から「うるさい」と文句を言われてしまいました。
仕方なくボリュームを下げて残念そうにしているパパを不憫に思ったのび太が、ドラえもんに相談して出してもらったひみつ道具が“アソボウ”です。
ドラえもんのアソボウは、人を遊びに出掛けさせる音叉(おんさ)です。
本体のネジを巻いて起動すると、特殊な超音波を1キロメートル四方(1)に発信します。この超音波が届いた人は無性にどこかへ遊びに行きたくなって、すぐさま出掛けます。そうしてアソボウの効果範囲からは人がいなくなります。
例外として、アソボウのすぐ近くにいる人には効力が及びません。ドラえもんが野比家でアソボウを使ったときは、家にいたのび太らだけは出掛けませんでした。
(1)ドラえもんのセリフより。音波の性質を踏まえると、各辺1キロメートルの正方形ではなく、半径500メートルの円形を示していると推測されます。
原作でアソボウは、音楽を爆音でかけても文句を言われないように、近隣を無人にするために使われました。
人がいなければご近所トラブルもない。こりゃ便利――ってオイ! いくら「遊びに行く」というポジティブな行動でも、人を怪音波で強制的に誘導するなんてもってのほか。身勝手が過ぎます。
モラルを度外視するなら効力そのものは有用です。どんなに雑然とした街でもアソボウを使えば「閑静な住宅街」に早変わり。騒がしい近隣住民に頭を悩ませている人にとっては蠱惑的(こわくてき)なひみつ道具でしょう。
半径500メートルともなれば、その中にはさまざまな状況の人がいます。例えば病院があったら、手術中の人や、安静にしてなければならない人がいるはずです。
軽はずみにアソボウを使ったばかりに、死者が出るなどの取り返しのつかない事態を招いてしまうかもしれません。
オフィス街でアソボウを起動すれば、万単位もの人たちに仕事をほっぽり出させて遊びに行かせられます。大きな損失が出ることでしょう。それが金融街だったら、混乱はなおさら広がります。
そして人がいなくなるということは、警備員や警察官も不在ということ。そのエリアではさまざまな犯罪が容易になります。
数千、数万もの人たちがいっせいに移動して特定のエリアから人がいなくなる。そんな前代未聞の出来事が起これば、原因を探られるのは必然です。
そのときに人がいなくなっていた範囲を事後調査で特定するのは難しくはないでしょう。そして円形の範囲が浮かび上がり、疑惑は自然とその中心へ向けられます。つまりアソボウを起動した地点です。
アソボウが引き起こす事態は大規模なだけに、秘匿性はあまり期待できません。
政府の議事や会談が行われている国会議事堂などを効果範囲に入れてアソボウを使えば、それがどれがだけ重要なものだとしても、無条件で放棄させられます。
そうやって国家を機能不全に陥らせる力をアソボウは秘めています。とはいえそれは革命ではなく、ただの愉快犯です。
人払いできるのは魅力的。でも個人で使うにはアソボウの効果範囲はあまりにも広すぎます。とてもじゃないけどおいそれとは使えません。
せめて効果範囲が調整できたらよかったのに。というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、アソボウの優先度は星
つです。