大人に好かれるためならクラスメートを出し抜くことも辞さないスネ夫のせいで、のび太たちは幾度も悔しい思いをしてきました。
そんなみんなの悔しさをスネ夫に思い知らせたひみつ道具が“ひい木”です。
ドラえもんのひい木は、えこひいきしてもらえるバッジです。これを身につけると、どんな場面でも、誰からも優遇されるようになります。
ちなみに「ひいき」とは気に入った人を支援すること。そして「えこひいき」は不公平なひいきを意味します。
ひい木を手にしたその日から、あなたの暮らしは激変します。学校ではどこぞの御曹司かのように、職場では大株主かのように、お店では常連中の常連かのように、いつでもどこでもVIP待遇です。
予約1年待ちの人気飲食店だって飛び込みで入れます。その代わりに予約を飛ばされた人は「1年待ったのに……。ひどい店!」と失望するでしょう。――ん?
そう、ひい木がもたらす優遇はとても不公平だから、なにがしの加害者と被害者を出すんです。あまりに身勝手。そんなひい木を有用だなんていえません。
えこひいきは、ねたみそねみを招きます。そして嫉妬心が積もり積もると、やがて憎しみに至ります。学校や職場といった自分の所属している団体でひい木を使いつづければ、潜在的な敵を作ることとなるでしょう。
ただしひい木の効力は好き嫌いの感情を超越します。あなたが嫌われ者になっても、ひい木をつけている限り、みんなが味方してくれます。
それでも危うい人間関係に身を置いていることに変わりないのだから、油断は禁物です。
基本的にえこひいきは誰かを差し置くことで成立します。だから嫌がられる。しかも未知の力で人を操ってえこひいきさせるだなんて! ひい木を手にすればすなわち悪に手が染まります。
逆にいえば、ひい木は誰かの犠牲の上に立つことを辞さない人にとって、最強の部類に入るひみつ道具です。
ひい木が人を操る力は知覚できません。あたかも自分の意志でえこひいきしたように錯覚します。
とはいえ、「えこひいき」という目に見える言動を起こすからには、いずれ「あの人いつもえこひいきされてるよね」と噂(うわさ)になるでしょう。
その噂からひみつ道具の存在にまでたどり着く人が絶対にいないとも限りません。ひい木の力をひけらかすような振る舞いはくれぐれもしないことです。
ひい木を身につけて選挙運動にいそしめば当選間違いなし。政界に入ってからも、あらゆる有力者が便宜を図ってくれるのだから、内閣総理大臣になることだって夢ではありません。
そうなったらもう外交で他国の元首からもえこひいきしてもらって、いけるとこまでいきましょう。
悪名か名声か、どちらにせよ、歴史にその名を残せます。
いつでもどこでも誰からも優遇される。こんな都合のいい話がほかにあるでしょうか。そのために人を操るだなんて許されるはずがないけれど、あまりの便利さに目がくらみます。
「自分は特別な存在だから優遇されて当然」だと信じて疑わないスネ夫みたいな人なら、躊躇(ちゅうちょ)なくひい木を身につけるかもしれません。
片やえこひいきされると居心地の悪さを感じるようなつつましやかな人は、ひい木を醜悪だと思うでしょう。
さて、あなたはどっちのタイプ?
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具から一つもらえるなら、ひい木の優先度は星
つです。