家が裕福でスポーツマンで頭も良いイケメンの矢部小路(やぶこうじ)がのび太の学校に転校してきました。それからというもの、しずかちゃんは矢部小路に夢中です。
このままでは未来の花嫁を奪われると危機感を募らせたのび太は、どんな手を使ってでもしずかちゃんの気持ちをつなぎとめたいとドラえもんに相談しました。
正々堂々と自分の魅力で勝負するべきだ、とドラえもんはのび太を諭したけれど、よくよく考えると今ののび太にそんな魅力はないと気がついて、仕方なく取り出したひみつ道具が“あいあいパラソル”です。
ドラえもんのあいあいパラソルは、恋心をかき立てる番傘(竹の柄で太身の和傘)です。
この傘で相合い傘を5分間すると、右手側(向かって左側)の人が左側の人を熱烈に好きになります。ターゲットの性的指向がどのようなものでも無関係です。
要するにあいあいパラソルは洗脳装置です。こんな代物で人の恋愛感情を操ることが有用といえるわけがありません。
すごく好きな人だったのに、付き合ってみたら思っていた感じと違って幻滅した、なんてのはありがちな話。そして別れ話がこじれるのもよくあることです。
別れをきっかけに相手がストーカーと化して、挙句の果てに殺人事件にまで発展する事例すらあります。
もちろんそこまでの事態に陥るのはごくまれです。けれど関係性をろくに築かずに、あいあいパラソルを使って一足飛びに交際にこぎつけたなら、通常よりもリスクは高まるでしょう。
人に恋心を無理やり抱かせるなんて絶対に許されません。悪用もなにも、あいあいパラソルは人の気持ちを踏みにじる邪悪なひみつ道具です。
あいあいパラソルによる洗脳で表面化する事柄は「5分間の相合い傘」というただ一点です。あいあいパラソルでどれだけの人をもてあそんだとしても、表沙汰にはなりません。
相合い傘という発動条件のハードルの高さは、下方向の効果範囲が長い特性を利用して、天井などに設置したあいあいパラソルの下にターゲットを誘導することで軽減できます。
なんにせよ、あいあいパラソルを使うことは、人の道を踏み外すことにほかならないと肝に銘じましょう。
今どき番傘を普段使いしている人は滅多にいません。あいあいパラソルはかなり人目を引くでしょう。けれど「恋心を抱かせる」という効力は目に見えません。
番傘による相合い傘を不審がられたとしたって、効力が発動さえすればこちらのもの。恋心で目がくらんで、そんな不信感も吹き飛ぶでしょう。
恋心はなかなか厄介な感情です。どのような行動として現れるかは千差万別で、コントロールするのは困難です。
あいあいパラソルで自分の信奉者を増やしていって、強大な社会的影響力を手に入れようとしても、そううまくはいかないでしょう。
あなたが思いを寄せる人にほかの誰かがあいあいパラソルを使ったとしたら――。それを想像すれば、あいあいパラソルがどれほどひどいものか身に染みるでしょう。
のび太はこれのほかにも、“刷りこみたまご”やら“キューピッドの矢”やらで、何度もしずかちゃんの気持ちを自分のものにしようと企てました。
どれも失敗に終わったからいいようなものの、もしも成功してそんな形で結ばれていたら、とてもじゃないけどセワシに顔向けできません。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、あいあいパラソルの優先度は星
つです。