また今年もエイプリルフールの日が来ました。毎年毎年だまされて、みんなの笑い者にされてきたのび太は、疑心暗鬼になって誰の話も聞こうとしません。
そんなのび太のためにドラえもんが出してあげたひみつ道具が“ハリ千本バッジ”です。
ドラえもんのハリ千本バッジは、嘘(うそ)を本当にさせるバッジです。
これを身に着けた人が誰かに嘘をつかれると、バッジが「ノマスー」と唸(うな)ります。するとその嘘の実現に向けて、相手の体がひとりでに動き出します。
ハリ千本バッジを着けたのび太に「切手コレクションをあげる」と嘘をついたスネ夫は、自分でもわけがわからないまま自宅からコレクションを持ってきて、のび太に全部あげてしまいました。それがどれだけ不本意なことでも自分では止められません。
これらの行動は着用者がハリ千本バッジを外した瞬間にキャンセルされます。
ハリ千本バッジを身に着けておけば、いわゆる「うまい話」でだまそうとしてくる人から身を守れるばかりか、そのうまい話を実現してもらえます。
実現してもらっては困る嘘をつかれても、ハリ千本バッジを外せば相手の行動をキャンセルできます。ただし速攻で実現できる嘘はキャンセルが間に合わないので、多少のリスクがつきまといます。
いずれにしても人の行動を操るのは褒められたことではないので、嘘の実現行動は毎回キャンセルして、嘘発見器にするのが穏便な利用方法です。大金が絡む契約を結ぶときなどに、心強いお守りになってくれるでしょう。
仲間内のやりとりで「殺す」と軽口をたたく人もいます。そんなときハリ千本バッジを身に着けていたら? 効力をキャンセルする前に押さえつけられて、そのまま首を絞められたら一巻の終わりです。
冗談でも事実でなければ「嘘」に含まれます。ハリ千本バッジの着用時は、口が悪い人との会話は避けたほうが身のためです。
――ねえ、今から自殺するって嘘をついて――。
相手にとって絶対にあり得ないことでも、ハリ千本バッジは必ず実行させます。とにかく相手に言わせてしまえばこちらのもの。どんなひどいことでもさせられます。
ハリ千本バッジは決して悪用してはいけません。
ハリ千本バッジが操るのはあくまで行動だけです。意思にはいっさい干渉しないため、相手に「なぜ自分は嘘を実現したのか」というわだかまりを残してしまいます。
「ノマスー」という目立つ唸り声と相まって、秘匿性には難があります。
政治家が公約を守らなかった事例は枚挙にいとまがありません。泣く泣く頓挫したのか、はたまた最初から実現する気なぞなかったのか。後者だったなら、それはつまり我々国民に嘘をついたわけです。
ハリ千本バッジを身に着けて政治家の演説を聴いて回れば、この国を変えられるかもしれません。
自分でついた嘘を現実にする能動的な“ソノウソホント”と違って、ハリ千本バッジは「嘘をつかれる」が発動条件の受動的なひみつ道具です。会話を誘導するにしても最後は相手次第だから、望ましい首尾になるとは限りません。
また「実現不可能な嘘をつかれたらどうなる?」という不確定要素も抱えています。
うまくハマったときのメリットが大きい半面、リスクもそれなりに高めです。嘘は嘘のままにしておいたほうが幸せなこともあるのを忘れてはなりません。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、ハリ千本バッジの優先度は星
つです。