近所の家に居候し始めたお人形さんみたいなかわいい女の子にのび太は一目惚れしました。大抵の子供が面食いであるように、のび太もまた例外ではないようです。
なんとかしてその子と友達になりたいというのび太ために、ドラえもんが取り出したひみつ道具が“キューピッドのや”です。
ドラえもんのキューピッドのやは、人の恋心を操る弓矢です。
この矢が刺さった生きものは、矢を放った人のことを好きになります。矢が本体で、弓は付属品です。そのため、弓を使わずにほかの手段で矢を刺しても効果は現れます。
実体のある矢にもかかわらず刺さっても痛みは一切なく、抜いたあとには傷一つ残りません。また、矢が抜けた瞬間に効果は失われます。
効果の反応は人によりけりで、まずは友達になろうとする人から、いきなり求婚する人までいます。情熱的な人ほど効果が顕著に現れるようです。人以外の動物に刺した場合は、激しく懐きます。
好意を持ってもらえば、その関係性におけるさまざまなことが優位に進められます。しかしそれは身勝手なマインドコントロールです。キューピッドのやを人に使うのは、目的に関係なく一様に悪用といえるでしょう。
動物に使う場合は調教を効率的に進める道具として有用かもしれません。
キューピッドのやが強く作用すると、ストーカー化するおそれがあります。とはいえ、矢を抜くだけで我に返るので、大して深刻な問題ではないでしょう。
相手の好意を利用して、こちらの要求を飲ませられます。ただでさせ好意を利用するのは狡猾な行為なのに、その好意は無理やり作った偽の感情なのだから、なおさら悪質です。結婚詐欺や性犯罪などの悪用につながるでしょう。
そもそも前述したように、キューピッドのやを無断で人に使うこと自体が悪用です。
のび太が一目惚れした女の子にキューピッドのやを使おうとしたとき、「ひとごろしい」と叫ばれながら逃げられました。キューピッドのやは、はた目にはただの矢です。それを刺そうというのだから秘匿性なんてありはしません。
相手に恋心を抱かせる道具というのは、実在しもしない「惚れ薬」が辞書に載っているくらい、ありふれた概念です。もっとも身近な妄想の産物かもしれません。
例えば香水は、多かれ少なかれ誰もが異性を惹き寄せる効果を期待してつけています。一種の惚れ薬として使われているようなものです。それくらい惚れ薬は、多くの人に求められているといえるでしょう。
そんな妄想を実現するキューピッドのやは革命的です。もしも量産化されて誰もかもが使い始めたら、人間関係がめちゃくちゃになって社会が立ち行かなくなってしまうほどの影響力があるでしょう。
キューピッドのやを使う側からしてみれば夢のような道具かもしれないけれど、使われる側にとっては悪夢です。「自分の好きな人にほかの誰かが使ったら」と考えてみれば、存在してはならないものだとわかるでしょう。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、キューピッドのやの優先度は星
つです。