のび太が寒がりなことを「よわむしだなあ」と馬鹿にされた話を聞いて、同じく寒がりのドラえもんがムキになって取り出したひみつ道具が“あべこべクリーム”です。
ドラえもんのあべこべクリームは、暑さと寒さ(熱さと冷たさ)が逆転するボディクリームです。体の一部にほんのちょっぴり塗るだけで、全身に効果が及びます。
原作エピソード「雪でアッチッチ」で、あべこべクリームを塗ったのび太とドラえもんが熱湯風呂に入ると、二人の体は凍りついてしまいました。体感温度ではなく、体のすぐ周りの温度が実際に変化しているようです。
とても熱い(冷たい)ものは、とても冷たく(熱く)なります。適温になるならまだしも、これでは結局温度調節が必要になってしまいます。
雪が降るほどの真冬の気温だと、海パン一丁が丁度いいようです。家の中では基本全裸で過ごす裸族の方は、冬は暖房要らずで光熱費を節約できます。
ファッション誌は季節を先取りするため、暑い時期に厚着を、寒い時期に薄着を撮影することになります。モデルをしている人なら、ロケのときに重宝するはず。
裸族でもモデルでもない大多数の人は、あべこべクリームが有用となる場面はほとんどないでしょう。
あべこべクリームを塗ったまま雪に触れたのび太とドラえもんは、あまりの熱さに「アチイッ。やけどするう」とパニクりました。しもやけや凍傷と違って、火傷は一瞬で負ってしまうので、寒さ冷たさには通常以上の注意が必要です。
ほんの少量で効果が出るため、相手に気づかれぬようこっそり塗ることも十分可能です。塗られた人は体に生じた変化を理解できず、パニックに陥ることでしょう。状況次第では、大やけどを負うかもしれません。なにげに悪質です。
一般的なボディクリームと同様に、塗っても見た目にはわからないようです。効果は劇的なので、なんらかの異変が起きていることは悟られるかもしれません。しかし、それが肌に付けるクリームから発生しているとは、夢にも思わないでしょう。
あべこべクリームの効果自体は、物理学の知見からすると革命的なことなのでしょう。けれど、我々の日常生活に大きな変化をもたらすシナリオは思いつきません。
夏になると、外は熱いのに室内は冷房が効き過ぎていて、体が冷えて困ります。冬は冬で室内が熱すぎて……。都市部は、どこもかしこもあべこべクリームの効果が生じているような状況です。これではあべこべクリームを使うまでもありません。
快適な温度になるならともかく、無暗に逆転するのでは役に立ちません。というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、あべこべクリームの優先度は星
つです。