のび太の折りたたみ傘を借りていたスネ夫が家まで返しに来てくれたのに、のび太もドラえもんも面倒くさがって玄関まで行きません。誰も出迎えに来ないので、スネ夫はしびれを切らして「いらないなら帰るよ」と叫びました。
ドラえもんは仕方なくひみつ道具の「ナゲーなげなわ」をしぶしぶ取り出して……。
ドラえもんの「ナゲーなげなわ」は、物を自動で取ってくる長い投げ縄です。これに口頭で指示を与えると、目的物のある場所までスルスルと伸びて、目的物をギュッとつかんで戻ってきます。
最大距離と最大荷重は不明。のび太の家の前からジャイアンの家まで届いた事例と、推定年齢5~7歳の児童を持ち上げた事例が確認されています。
「自宅でくつろいでいるときは、お気に入りの場所からなるだけ動きたくない」というのび太みたいにものぐさな人の話、けっこう聞きますよね。
○○取って!
スルスル
△△持ってきて!
スルスルスル
「ナゲーなげなわ」があれば、もう自分で物を取りに行かなくて済む!
腰に巻くなり肩に掛けるなりして常に携帯すれば、「第三の長ーい腕」となります。いわゆる「人間拡張」です。ものぐさな人以外にも、腕が不自由な人や、猫の手も借りたいせっかちな人にも重宝されるでしょう。
もっと重大な局面でも「ナゲーなげなわ」の出番はあります。水難救助です。のび太は川で溺れた児童をこれで助けました。
溺れた人を救助するのは素人には難しく、助けに入った人まで亡くなるケースが多発しています。しかし「ナゲーなげなわ」を使えば、安全・確実・迅速に救助できるでしょう。
「ナゲーなげなわ」を始めとする音声で操作するひみつ道具は言葉を柔軟に解釈してくれるので、厳密な指示を必要としません。だからといって大雑把に指示を出していると、そのうち想定外の結果を招くことになります。
人様の物を取ってきてしまって予期せぬ窃盗にならないように、「ナゲーなげなわ」への指示出しは少しばかり気を使いましょう。
「ナゲーなげなわ」をうかつに使うと、図らずも盗み取ってしまうかも。それなら最初から窃盗が目的だったらどうでしょう。
同じく物を取り寄せるためのひみつ道具「とりよせバッグ」と違って、「ナゲーなげなわ」は空間を飛び越えません。これも遠隔から窃盗を実行できるとはいえ、縄が物理的に届く物しか取れないし、道中は丸見えです。
「未来のひみつ道具だからこそできる!」というほど特別な悪用方法は「ナゲーなげなわ」には見いだせません。
音声による指示を的確に理解して、目的物を迅速に探索する高度な機能。そして未知の駆動方式とエネルギー源。未来感が一見ないようで、そのじつ「ナゲーなげなわ」は地味にオーバーテクノロジーです。
そんな代物をこの現代で大っぴらに使えるかというと……。
オーバーテクノロジーといっても、「ナゲーなげなわ」のやることは物を取ってくるだけ。これ一本で社会は変わりはしません。
「ナゲーなげなわ」の「指定された物を取ってくる」という機能は単純明快にして実用性の高いものです。投げ縄型なのが野暮ったいけれど、そういった遊び心がひみつ道具の特色なので仕方ない。
気になるのは応用力がなさそうなこと。宅配ボックスの施錠を開けられるかいうと、おそらく無理でしょう。22世紀の道具を先取りしているのに!
便利は便利。でも「未来のひみつ道具ならでは!」という特別な体験は得られません。というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、「ナゲーなげなわ」の優先度は星 つです。