道を歩けばイヌに追われ、ドブに落ち、お金を落とす。そんな自分の不運をのび太は嘆きました。
そんなのび太をドラえもんが「まじめに努力していれば、いつか…、夜はかならず朝となる。長い冬がすぎれば、あたたかい春の日が…」(1)と励ますと、「もう待てない」と泣かれてしまいました。
そこでドラえもんが渋々出してあげたひみつ道具が“アヤカリン”です。
(1)てんとう虫コミックス『ドラえもん』第20巻「アヤカリンで幸運を」より。
ドラえもんのアヤカリンは、人の幸運にあやかれる錠剤です。
なにかラッキーなことがあった人に、これを服用してから触ると、それと同じ種類の幸運が自分にも舞い込みます。あやかれる幸運の度合いは、元の人がラッキーなことにあってから時間が経つにつれて減少します。
たとえば高級腕時計をおみやげにもらった人にあやかったのび太は、小さな砂時計をおみやげにもらいました。ドラえもんによると、もっと早くに触れていたら、のび太も腕時計がもらえたそうです。
効果は1錠につき1回で、服用してから誰かに触るまで待機状態は切れません。
内容量は120錠入りとします。
のび太はいち早く幸運にあやかりたくて焦るがあまり、なかなかことがうまくいきませんでした。
しかしアヤカリンは水なしで飲める小さな錠剤です。持ち歩きも楽な上にいつでも服用できるのだから、常に携行して、焦らずに好機を待てばいいのです。
その性質上、得することはあっても損することはあり得ません。これは絶対に当たる宝くじを120枚もらったようなもの。長い目で見る余裕をもてば、ありあまる幸運を授かれるでしょう。
「不運もうつる」といった落とし穴はないので、アヤカリンは安心して使えます。
ただし発動条件の「人の体に触る」は要注意です。肩を軽くポンと叩くだけでも関係性によっては不快感や不信感を与えかねません。セクハラとスキンシップは紙一重。ボディタッチは慎重に行いましょう。
アヤカリンを服用した人にも、その人に触られた人にも、いっさいデメリットは生じません。そのため悪用方法は考えられません。
もしも「運」が気のせいではなく、確かに存在するのなら、間違いなく現代科学ではその片鱗(へんりん)にもたどり着けない高次の力です。
アヤカリンの効力を証明する術まだ知らない我々現代人からすれば、幽霊などのオカルトと変わりません。信じてもらうほうが難しいくらいでしょう。
「相手の幸運を奪い取る」という能力者を描いた『10億分の1の男』というスペイン映画があります。
どちらかといえば、この映画のように幸運が人から人へ移るだけ、つまり「人類のもつ幸運の総和は増減しない」ほうが体感に近く思えます。
アヤカリンが流通すれば人類の幸運は爆発的に増幅するのだから夢のような話――そもそも『ドラえもん』が夢物語(フィクション)なのはさておき――です。
とはいえドラえもんからもらえる1瓶だけでは世界を変えるには足りません。
幸運は誰にとっても望ましいもの。割と多い誰得なひみつ道具と違って、アヤカリンは普通に幸せに寄与するでしょう。それを考えれば、発動条件のハードルがやや高いのも許せます。
ドラえもんの言うとおりまじめな努力の積み重ねも大事だけど、それはそれとして、ときには楽する柔軟さも必要でしょう。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、アヤカリンの優先度は星
つです。